「失敗は成功の母」という言葉があります。
失敗にくじけずに成功を目指して邁進しようという言葉ですが、技術者的には、別のとらえ方をすることができます。
それは、技術的な失敗はそこまでの論理的な考察あるいは手順に間違いがあったからであって、それを正すことによって成功に近づくことができるというものです。
新しい技術に相対した時には、世の中には情報が少なく試行錯誤をするしかないような場合もあります。その際にいくつかの方法を試すことになるので、最初は失敗するのですが、その失敗パターンを分析して次を試みることで、いずれは正しい方法を見つけ出すことができるようになります。(見つけられない場合もあります)
世の中で「属人的知識」を排しようということが言われています。しかし、このような失敗の積み重ねによって到達された成功についてを自分以外に伝えることは極めて難しいのではないでしょうか。
「属人的知識」にしないために記録を残す。ドキュメントを残す。ということが言われますが、それらの失敗の記録を漏れなく記載し、それぞれでの考察を書きつづっても、それを読んだ人には単なる経過としてしか映りません。むしろ、成功した事例についてのみの情報が必要とされるので、読まれることはないでしょう。(そして、たとえ読んだとしても、失敗の経験を真に追体験することは難しいでしょう)
これは至極当然のことであって、組織としての成長を考えると、同じ失敗を後進が繰り返す必要はありません。
したがって、失敗事例は残らないし、残したとしても顧みられません。
しかし、その個人の成長に必要だったのはその失敗と考察の結果であって、つまるところこれを人に伝えることはできないのです。
もちろん、伝えることが可能である「属人的」知識は存在します。しかし、「属人的」知識をなくすためと称して無意味な情報共有を行う愚は避けなければなりません。
(M.H)