2021年度 人工知能学会全国大会 (第35回) 参加報告

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先日、2021年度 人工知能学会全国大会 (第35回)に参加してきましたので、学会の様子や、興味深かった発表について報告いたします。

人工知能学会全国大会とは

人工知能学会全国大会は公式HPで以下のように紹介されています。

本大会は,人工知能に関連する国内の研究者が一堂に集い,研究成果を発表する場として開催している年次大会です.

人工知能に関連する最新の技術動向,新しい研究成果やアイデアなどの発表を通して,意見交換・交流を行っております.

研究成果発表に加え,著名な講師をお招きした基調・招待講演やチュートリアル,魅力的なテーマを取り上げた各種セッションやパネル討論,スポンサーの皆様によるオンライン展示など,多彩なイベントを企画・開催いたします.

また,本大会では,日本の人工知能学会を国際的に発信するための場として,前回大会に引き続き国際セッションも開催いたします.

人工知能学会全国大会公式HPより

人工知能学会全国大会は、人工知能関連の国内研究者が集い、研究成果の発表を通して意見交換等の交流を行う場であり、国際的に発信する機会も設けられている、最新の人工知能の動向を把握することができる有意義な大会だと言えます。

概要

大会情報

会期:2021年6月8日(火)~11日(金)

会場:オンライン開催

参加者数:2320人(前年比100.7%)

論文発表件数:529(前年比57.8%)

後援:人工知能研究開発ネットワーク

オンライン開催のため参加者数は前年度と変わらなかったようですが、論文発表件数は前年度の6割を切っていました。

また、大会プログラムは「基調講演・招待講演」「チュートリアル講演」「企画セッション」「学生企画」などをはじめとする全9種から構成されていました。詳しいプログラムはこちらからご覧になれます。

興味深かった発表

AI技術を用いた社会問題解決の事例や、人工知能を取り巻く諸問題についての発表を中心に聴講してきました。

その中で興味深かったものをいくつかご紹介します。

「Smart Itami」兵庫県伊丹市役所におけるDXの推進

発表者:大田幸正氏(伊丹市総務部総務室情報管理課長)


■伊丹市において新しい働き方について考える必要性が増し、これに対し下記4点の施策を打ったとのこと。

スマート自治体への転換:労働人口の減少により税収が減少していく中で、行政サービスを継続していくためにスマート自治体への転換が必要なため。
AI、RPAなどの技術革新:社会の在り方に影響を及ぼす新たな技術の進展(AI、RPA、IoT、ビッグデータ等)への対応、活用が不可欠。
働き方改革関連法の施行:超勤の上限規制、年5日以上有給休暇取得の義務づけ等、ワークライフバランスのさらなる推進を行う。
新庁舎の整備:ユニバーサルレイアウト、モバイルワーク等、働く環境の変革への適応。

■上記4つの施策のうち、最後の「新庁舎の整備」を中心にDXの推進が進んだ。平成30年に「新庁舎整備基本計画」を策定。基本方針の1つに「質の高い行政サービスを実現する庁舎」を掲げ、職員が能力を発揮しやすい執務環境にシフトチェンジすることを目指している。これにより、庁舎建て替えにおけるハード面の整備と同時に、業務自動化等のソフト面の改革が必要になったとのこと。

■前述のような経緯を経て、主に超勤レス、ペーパーレス、キャッシュレスを掲げた「Smart Itami宣言」を令和元年に発出。今回の発表では、超勤レス(AI・RPAの活用)の事例が紹介された。事例の詳しい内容は下記の通りである。

RPAの導入
-大量のデータを扱う税務部門からRPAの導入を開始。税業務においてRPAを活用した定型的な入力業務の自動化を実現。
-導入した結果、対象事務において年間830時間(約71%)の業務時間削減が可能となった。

□RPA導入による成功体験を基にSmart Itamiの取り組みを広げるため、令和2年度に地方自治研究機構との共同調査研究を実施。
-調査研究事業名:「Smart Itami」AI等の技術革新や働き方改革の推進に関する調査研究
-課題:意識改革や運用の見直しによる「働き方改革」の効果が頭打ち。
   →AIなどの技術革新、ペーパーレス等、大胆な業務改革による生産性の向上によって対応する必要がある。
-実証実験内容:
(1)AI等の活用による業務効率化・高度化の効果検証(AI-OCRを活用した帳票読み取りなど)
(2)市民・職員のニーズ把握
(3)50%のペーパーレス実現に向けた文書削減計画の検討
(4)新庁舎におけるAIサイネージを活用した次世代型総合案内の研究

-効果:ハード面(庁舎建て替え)とソフト面(業務自動化等)の取り組みにより、業務改善効果が最大化され、職員の働きやすいスマートな職場環境と市民サービス向上が実現された。

Smart Itami宣言 概要
RPAの導入概要
共同調査研究概要

■RPAの導入や、共同調査研究におけるAI導入実証実験を通して見出したこととして、以下を挙げていた。AI導入が必ずしも人間の作業を省力化するとは限らないことが、今回の事例で改めて明らかになったと言える。

-人間の業務をAIが代打することで省力化が実現されると期待していたが、AIを導入しても尚、人間による補正作業が求められるのが現状。省力化できる部分と、逆にAI導入で作業が増える部分があることがわかった。
-しかし、AIは実用段階ではないとして導入を先送りするのではなく、AIに合わせた業務の再構築AIと人間の共存による効果的な活用方法を追求すること組織全体におけるマインドセットの浸透が大切

新しい技術と人間らしい営みとをつなぐ社会的デザインの実践

発表者:小早川真衣子氏(千葉工業大学)


■研究背景

デザイン方法の変革の必要性(具体的にはdesign for usersから、design with peopleへの変革)
介護現場の課題:人の入れ替わりが多い→人材育成の時間不足→介護の質の維持が困難
人工知能研究の課題:介護現場を工学的に支援したい→有用な介護の知識を得ることが難しい

■問題の設定

-施設やベテラン介護士特有の知識構築
-介護者たちの振り返りと相互理解の促進(多人数で行うことで様々な意見交換が可能になり、技術の再確認が可能)
上記問題設定の過程で明らかになった事項:構築した構造化知識技術は、マニュアルを見ながら仕事を覚えるわけでは無いので、誰が・いつ・どのような場面で使うのかを明確化できない。実践の当事者(介護者)と一緒に未来の介護の仕事のあり方を議論する場が必要。

■共創プロジェクト「AID」の立ち上げ

ねらい:介護の仕事と構造化知識技術のつながりを探求
プロジェクトの流れ
[2019年度]知識構造化ワークショップを実施。構造化知識技術の現場導入の未来像を描く。
[2020年度]新たな活動と道具の開発とプロトタイピング
[2021年度]現場主導プロトタイピング
実際に開発したプロトタイプ「Care Dignity」
介護者ごとにカラー分けし、見える化に特化したプロトタイプ。作業を視覚的に人型図形の上に記録する方式を採用。作業と仕事の見える化により、介護者自身が介護の専門性を見出す仕組み。

Care Dignity:初年度に描いた基本コンセプト
実際に開発されたプロトタイプ

■プロジェクトを進める過程で見出したこと

実践・現場の流れを分断させないことが重要である一方で、困難でもあること。
介護者の作業、体験を別々の要素と扱い別機能として道具化したが、実践においてはこれらは別れていない。現場で不可視になっている、意味ある流れを共に顕在化することが需要。
-開発と実践をよくすることを一体と捉えるデザインプロセスを構築する。
ともにデザインする過程では、実践者は、自分たちの実践のあり方をデザイナーに問われることが起きる。デザイナーが実践者の主体性の立ち上がりを待てるような、両者の関係の相互性が深まるデザインプロセスの構築が重要。

■今後の課題

-社会的デザインの方法を製造現場でも実践し、モデル化する。
-構造化知識活用のデザインを具体化させる。

社会が望むAIのかたち – サステナブルなAI社会を目指して-

司会:武田 英明氏(国立情報学研究所 教授/人工知能学会倫理委員会 委員長)

登壇者(五十音順)
須賀 千鶴氏(世界経済フォーラム 第四次産業革命日本センター長)
平野 晋氏(中央大学 国際情報学部 教授)
福島 俊一氏(科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー)
安田 クリスティーナ氏(MyData Global 理事)


■セッション全体のテーマが、司会の武田氏より提示された。

テーマ:10年後、より良い生活を送るためにAIにどのような期待をするか。制度等のあり方はどうあるべきか。

■次に、各登壇者から本セッションで議論したいトピックが提示された。

□福島氏
-信頼されるAIが求められる背景:ブラックボックス問題・バイアス問題・品質保証問題・フェイク問題・脆弱性問題
→これら問題を技術で解決するには、説明可能AI・AIシステムのテスト・フェイク検知・公平なAI・AI品質管理・考慮/熟議の促進が考えられる。
→しかし、技術的対策だけでは限界がある:システムの限界性・情報の信頼性
提示されたトピック:AI社会における信頼の形成に向けてできることは何か。
「信頼されるAI」のための技術開発、制度設計、人々の経験・リテラシー向上、etc…

□安田氏
-ハッカーによるアタック数は近年で30倍に(ハック方法:パスワードスプレー、フィッシング、ブルートフォース等)
→ハッカーの特定は人間の手に負えない状況
-ハッカーへの対応:ドメインナレッジの獲得、機械学習を用いた多層構造による防衛、データのラベリング、テレメトリー
提示されたトピック:上記ハッカーへの対応方法のバランスをどう考えるか。

ドメインナレッジの獲得、機械学習を用いた多層構造による防衛、データのラベリング、テレメトリー

□須賀氏
-第四次産業革命:世界同時多発的に起きてくる大きな非連続の変化が、第四次産業革命。これに対し各ビジネスが如何対応するかということに加え、各国の政府の対応も同様に重要になってくる。
→各国の方向性のズレがあると、様々なプレイヤーが挟まれる可能性がある。
提示されたトピック:第四次産業革命の最重要課題でもある、各国が合意できるデータガバナンスをどのように実現していくか。

データガバナンスにおける世界の動向

□平野氏
-これからのAI関連の法制度:大きな技術発展のためにも、規制は最小限に止めるべき。
-一方で、差別の問題(social scoringなど)など、規制せざるを得ないものもある。現にEUでは禁止されている。
提示されたトピック:制御不可能性(AIの複雑性、不透明性、脆弱性、予測不可能性等)にどう対応していくか。問題発生後の解決や、責任の所在の判断が困難である。

■登壇者による話題提供を受け、下記3点を中心に議論がなされた。

①目指す世界が、どのくらい美しい(秩序ある、矛盾のない)世界なのか
-福島氏:人間の能力を超えた可能性をもたらしてくれるのがAI。苦手な箇所を克服してくれたり、そうした各個人にフレンドリーなAIというのを描いている。AIと人間の間で共進化していく過程で、お互いに成長し合えて可能性が広がるような世界。
-安田氏:「信頼のある世界」がキーワード。法規制等のルール作り、オンラインとオフラインの信頼作りが成されている世界。

②AIデータを、誰のために、何のためにガバナンスするのか?
-安田氏:ユーザーのレベルで、一定のアクセプトの仕組みを作り続けていくことが大切。ユーザーと、持続可能なエコシステムのため。
-福島氏:フレンドリーなAIとの共生世界の背景には、多様性がある。個人個人に寄り添った、多様性の尊重がAIで可能なのでは。そのためのガバナンスである。

③技術や法律が融合する世界で、どういった切り口で目指すべき世界にたどり着けば良いのか?
-福島氏:技術的に実現可能なことは、追求していきたい。ただ、それだけでは足りないので、マルチステークホルダーとの議論の機会を増やしていきたい。技術的な面で透明性を確保していくことが、人々の多様性を尊重する上で重要になってくる。

■時間の関係で全体としての結論というのはまとめられずセッションは幕を閉じた。が、人類がこれまで制御可能だった分野を、制御不可能として諦め手放してしまう時が訪れた際に、人間が共通認識(法的、社会的に)を持ち対応できるような基盤を今から固めておくことが重要だ、という点が登壇者4名に共通していた。

おわりに

本記事でご紹介した発表・セッション以外でも様々な議論が盛んに行われており、多種多様な専門家の見解や知見を直接聴くことができるという点でも、有意義な大会でした。

今年の論文発表件数は昨年度の6割を切っていることから、コロナ禍での研究が困難だった、もしくは人工知能分野での技術的発展が頭打ちになり探索の時期に入っているのでは、と推察します。

しかしながら、社会問題解決におけるAI技術のポテンシャルはまだまだ広がりを見せてくれそうだ、と今回参加して感じました。今後の、社会への益々のAI技術の浸透に期待したいです。

M.Y

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